夢を生む心の大地〜さいたま市立下落合小学校創立50周年記念刊行物に寄せて〜臼田道成



「君の夢はなに?」僕の小学校時代だったら、男の子の答えは、「プロ野球選手になりたい!」、女の子なら「歌手!」とか、「スチュワーデス!」なんてのが多かったかな。今の君たちからは、どんな答えが返ってくるのでしょう。僕自身はどうかといえば、将来の職業についてなら、父が医者だったので、迷わず「お医者さん」。この答えは現実的すぎて、あまり夢っぽくないね。でも、もう一つあった。「高校野球で甲子園に出場すること!」こちらは、けっこう「夢」でしょう?もちろん、甲子園には行けなかった。打つほうは、わりと得意だったのだけれど、投げるほうのコントロールがあまり良くなかったんだな。ついでに言うと、お医者さんにもなれなかった、というより、ならなかった。そのかわりに、音楽家になってしまった。あの頃の夢は二つとも、実現しなかったのですね。どうしてなのかなあ?
答えは簡単。「夢」は変わるもの、だからです。小学校を卒業して、中学、高校…と進んで成長していって、その間に勉強以外にもいろいろな、たくさんの人、できごとに出会い、感じ、考えるなかで、僕たちの「夢」は少しずつ形を変えてゆくものなのです。なに、「今の夢がかなわなきゃイヤ」だって? ううむ、でもね、夢はかなうことばかりが素晴らしいのではないと思うよ。夢のほんとうに良いところはね、誰から与えられるのでもなく、君の中にある「夢見る心」から生まれてくる、そのことにこそあるんじゃないかな。かなわなくたって、一生懸命努力した結果、かなわなかったのであれば、その夢はきっと美しい思い出を残してくれることでしょう。僕の場合、「甲子園」の夢が、いつしか何の関係もない「美しい音楽」の夢へと形を変えてしまいましたが、それでも、この二つの夢を生みだしたのは、僕の中のたった一つの夢見る心、言いかえれば「夢を生む心の大地」みたいなもの。君たちの心の中にも、そんな「夢を生む大地」があって、やがておじいさん、おばあさんになるまで、ずっとその大地が夢を生み、育てつづけるのです。人生にはいろんなことがあるから、時には日でりがつづいたり、嵐に見舞われたりして、夢が枯れたり、しおれたりすることもあるでしょう。でも、この夢の大地は、誰もが一生、心の中に持っていて、決して失われることのないものです。「夢なんてなくしたよ」なんて悲しいことを言う人の心の中にも、ちゃんと、その大地は隠れてあるのです、見失っているだけなのです、きっと。

さて、君たちの若い夢の大地は、まだまだ新鮮、栄養たっぷり。イキのいい、大きな夢を生み出せる、まさに豊饒(ほうじょう)の大地です。うらやましいなあ。でも僕も、まだまだ夢見ていますよ。なにしろ音楽ってのは、夢の世界だからね。君たちに負けてはいられない!
最後にもうひとつ。今、世界では戦争や犯罪が頻発しています。テレビのニュースで君たちも見ているでしょう。夢をこわすような事件ばかりだと思いませんか? さて、ではこのような戦争や犯罪をなくすには、いったい何が必要なのでしょう。愛? うーん、ちょっと難しい言葉だな。もっとわかりやすくて、ピッタリの言葉がここにあるじゃないですか。「夢」ですよ。よく耳にするでしょう「そんな夢みたいなことを」って。でも、心から「こうなってほしい!」と一人一人が思う「夢」たちが、やがて一つになって、世界を変えてゆくのは事実です。そして「甲子園」の夢、「音楽」の夢を生んだのと同じ心の大地に、平和の夢だって育つのです。
夢見ること、は君たち一人一人が生きてゆくために大切なのはもちろんだけれど、実は、世界の平和のためにも、とても必要なことだったんだな。世界は君の夢を必要としている! カッコ良すぎる結論? でも、本当のこと。たくさん夢見てね。そして、いつまでも。



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